北朝鮮でクーデターが起きない理由をわかりやすく説明します。

これまで北朝鮮の指導者が死去するたびにクーデターが必ず起きるということが政治評論家や北朝鮮専門家から発せられてきました。

でも、専門家の期待に反して?北朝鮮では建国以来、現在に至るまで一度もクーデターが起きたことはありません。

そもそもクーデターとは、フランス語で”国家への一撃”を意味します。
これまでの世界の歴史では、”国家への一撃”を行うのはほぼ100%軍隊です。

北朝鮮でクーデターが起きない最大の理由は、北朝鮮の政権が軍隊をうまく監視・コントロールしているからです。

そこで、まず北朝鮮における軍隊の位置づけについて説明します。



■北朝鮮の軍隊は朝鮮労働党の軍隊

北朝鮮のような共産主義国の軍隊は、国家の軍隊ではなく、国家を指導する共産党(北朝鮮の場合は朝鮮労働党)の軍隊ということになります。

軍隊の名前が朝鮮軍ではなく、党の軍隊を意味する朝鮮人民軍となっているのはこのためです。ちなみに中国の軍隊は、人民解放軍です。

つまり、朝鮮労人民軍のトップは朝鮮労働党の党員でもあるため、労働党の最高指導者金正恩に無条件で忠誠を誓う立場にあるのです。

朝鮮人民軍の参謀総長・大将といった軍のトップクラスでも朝鮮労働党という党のなかでは必ずしも指導者層に位置しているわけではなく、朝鮮人民軍全体が朝鮮労働党の指導に従い、活動しているのです。

■朝鮮人民軍の最高幹部の人事さえ朝鮮労働党の承認が必須とされる組織体制

朝鮮人民軍の参謀総長・大将といった最高幹部に誰が就任するかについては、朝鮮労働党の核心組織ともいえる組織指導部の承認がなければ行えない仕組みになっています。

仮に人民軍の中でこの人物は優秀だから来月から大将に昇進させようと思っても、その昇進内容とその人物の賞罰情報等を組織指導部に通知して審査・承認を得ない限り、大将には簡単にはなれないのです。

この段階で体制から好ましくないと判断された人物は除外されていくのです。

このように、朝鮮人民軍の指導者層には反体制的な人物が就任できないようになっていることがクーデターが起きにくい環境を作り出しています。



■朝鮮労働党の指示に従わざえるを得ない朝鮮人民軍の実態

朝鮮人民軍には、職業軍人の他に政治将校という共産主義国の軍隊特有の幹部がいます。
政治将校の役割は軍幹部及び軍隊が党の指導に従っているのか監視することにあります。
実際、軍が大規模な作戦や軍隊の移動をしようとする際、必ず事前に政治将校の承認を得る必要があります。

朝鮮人民軍の場合、参謀総長・大将といった職業軍人のトップの上に総政治局長という政治将校の最高幹部が君臨していて、職業軍人が勝手な行動ができないような仕組みになっているのです。

このような軍における組織体制のため、朝鮮人民軍は、朝鮮労働党の指示に従わざえるを得ず、クーデターを起こすことが極めて困難になっているのです。

この政治将校という職務は、世界初の共産主義国ソビエトの軍隊、赤軍にクーデターを防ぐ目的で創設されました。
実際、ソビエトでは一度もクーデターは起きませんでした。同じ仕組みを持つ中国も同様です。

■朝鮮人民軍最高幹部に対する24時間監視体制とは

朝鮮人民軍最高幹部は、朝鮮労働党からその動向を日常的に24時間監視されています。
具体的には国防相、参謀総長・大将クラスは家に盗聴器が仕掛けてあり、会話や電話で何を話したかは全て監視下におかれています。

軍最高幹部自身も普段の会話や行動が24時間監視されていることは知っていますので事前に計画しないと実行できないクーデターについて話すらできない状況となっています。
このような軍幹部に対する徹底した監視のため、クーデターを実行するどころか計画すらできないという状況にあるのです。

仮に金正恩に不満を持ち、同じ考えを持つ他の軍人に電話で”金正恩を打倒するためにクーデーターを起こさないか”と連絡すると会話を盗聴している秘密警察が真夜中に幹部の自宅に急襲、逮捕・連行されるということになります。

実際、金正恩の名代としてロシアを訪問したものの、思うような成果をえられなかった当時の国防相が金正恩に対して不満を述べたところ、その場で逮捕、処刑されるということが起きています。



■金正日総書記が始めた先軍政治とは?

クーデターが起きる最大の理由は、時の軍隊が国家に対して何らかの不満を持つことに起因しています。

金正日総書記時代、全てにおいて軍が優先するとする”先軍政治”を行いました。

これは、1990年代にソ連をはじめとした共産主義国が崩壊していく過程で、当時の東欧の共産主義国として北朝鮮と親密な関係にあったルーマニアで軍隊によって大統領が処刑されていくのを目の当たりにした金正日総書記が、軍の恐ろしさを実感したことで始めた政策でした。

”先軍政治”とは、具体的には軍最高幹部に対して人事面からは金正日の覚えめでたい軍人が中将から大将に昇進しやすくしたり、経済的な面からは、豪華な住宅を提供。

また、時に応じて高級車をプレゼントする等で、政権に対する不満がでにくい環境作りに取り組みました。

このような環境のため、軍の最高幹部は、政権と利益を共有するような関係となっており、政権を打倒することが目的のクーデターを起こす動機そのものが希薄になっているのです。

つまり、軍幹部からすれば、クーデターを起こすことで失う利益のほうが遥かに大きくなっているため、仮に体制に不満があったとしても行動を起こしにくいのです。

■クーデターを抑止するための金正恩直属軍とは

朝鮮人民軍の中には金正恩の警護を専門に担当する軍隊が平壌に存在しており、軍の精鋭が集められているとされています。

この軍隊は金正恩直属で、もし、地方の軍隊がクーデターを起こしたとしても、この部隊が鎮圧することになっています。

ですので、そもそもクーデターを計画することすら困難なうえ、起こしたとしても勝ち目のない金正恩直属部隊と対決することになるのです。

以上のようなことから今後も北朝鮮においてクーデターはまず起こりえないと思います。


■まとめ

①クーデターは、その国の軍隊によって引き起こされますが北朝鮮の軍隊である朝鮮人民軍は組織的に朝鮮労働党の指導に従わざるを得ないため、クーデターを起こすどころか計画すら出来にくい状況にあります。
このことが建国以来、北朝鮮で一度もクーデターが起きていない最大の理由となっています。

②朝鮮人民軍の組織には、職業軍人を監視するための政治将校が配置されていて、クーデターを防止する役目を果たしています。

③朝鮮人民軍の国防相、参謀総長クラスの最高幹部はその会話内容を24時間盗聴されていますのでクーデターの”クの字もいえない”状況に置かれているため、今後もクーデターを起こすのは極めて困難です。

④朝鮮人民軍の幹部クラスは豪華な住宅を提供される等、好待遇のため、そもそもクーデターを起こす動機が希薄になっていることがクーデターが起きにくい状況をつくりだしています。



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