右翼と左翼の違いが共産主義から護憲志向に変化した理由をわかりやすく解説

右翼と左翼は、国家観や国家と個人の関係、王政や憲法等についての政治上の考え方の違いを表した言葉でその起源は、フランスにあります。

右翼と左翼は、世界共通の政治用語ですが、その捉え方は国により、異なります。
例えば、欧州の国ですと人種差別に対するスタンスも重要なポイントになります。

また、右翼と左翼は時代により絶えず、変化しています。

ですので”右翼と左翼の違い”といってもいつの時代で比べるのかによってその違いは大きく異なります。

現状の日本における右翼と左翼の違いについて説明する前に、まず、右翼と左翼の定義について過去の経緯を交えてわかりやすく説明します。



■日本における左翼の定義の変遷

★1980年代までの左翼

日本の1980年代までの左翼は、当時、共産主義大国としてアメリカと対峙していたソ連の影響を強く受けていました。

具体的には、”日本やアメリカのような資本主義体制よりもソ連・中国・東欧をはじめとした共産主義体制の方が優れている”という考え方が左翼志向の人たちの行動や思想の強力なバックボーンになっていました。

また、1960年代から1970年代にかけて起きたベトナム戦争におけるアメリカ軍の介入に反対する平和運動に関わった人たちの多くも左翼の担い手でした。

憲法については、現代の左翼と右翼では、特に9条改正が論点となっていますが、この時期の左翼は”自衛隊は憲法違反なので廃止すべき”というスタンスが主流でした。

組織レベルでは、官公庁の労働組合の自治労や教職員の労働組合である日教組のような巨大組織も左翼陣営の中核をなしていました。

市民レベルでは、労働組合が左翼陣営の有力な担い手でした。

政党では、日本共産党と日本社会党が左翼政党とされ、国政選挙では、左翼志向の人たちから大きな支持を得ていました。

1970年代には左翼陣営は、政治的に強力で,地方自治体レベルでも社会党と共産党の支援をうけた美濃部亮吉氏が都知事に、やはり社共両党が支持した蜷川虎三氏が京都府知事になる等、他に大阪府や川崎市にも左翼系の首長が誕生と現代とは比較にならない影響力を誇っていました。

こうした左翼系の知事や市長を擁する自治体は当時、革新系自治体と表現されていました。

1980年代までの左翼は、反体制を意味する革新・平和志向が特長でした。

★1990年代以降の左翼

1991年にそれまでの左翼陣営の強力なバックボーンであったソ連が崩壊。

同時に社会主義・共産主義体制への幻滅が広まったことで左翼の存在意義を再定義する必要に迫られました。

国内では、1993年に長期政権を築いてきた自民党政権が野党に転落し、逆にそれまで左翼政党とされた政党が政権入りしたことで、政党面からも左翼のあり方が変容を迫られました。

つまり、左翼陣営も政権入りしたことで反体制・反政権とは言えなくなったのです。

このような、1990年代初期に起きた大きな出来事を契機に、左翼はそれまでの”資本主義か共産主義か”という体制選択を背景とした行動から、”現体制を維持した中で、よりよい政治を目指す”といように変容していき、現在にいたっています。

したがって、日本において左翼といえば、かつては、反体制的でしたが、現代では、政策レベルの対立がメインとなっています。

ただ、歴史認識に関しては、韓国・中国の主張に融和的で戦争犯罪や靖国神社参拝に厳しい態度を一貫して保持しています。

1990年代以降の左翼は、1990年代以前より、その主義・主張が現実主義化・穏健化したことが特長です。

また、以前は保守の一部を形成していたリベラル志向の人も左翼と呼ばれるようになってきたことも近年の特長です。

このような経緯を経て、現代の左翼は、かつての反体制・共産主義志向から”護憲・平和・少数者擁護”にその活動の軸足をシフトしています。



■日本における右翼の定義の変遷

日本における右翼は、左翼ほど変化はしていません。

それは、右翼志向の人たちの行動や思想の強力なバックボーンは、主として天皇制にあるからです。

ちなみにこの天皇制という言葉は、左翼系の学者が産み出した用語で、天皇崇拝派の右翼は天皇制とはいいません。

かつて、高名な政治学者が”左翼は勉強しないとなれないが右翼は勉強しなくてもなれる”と名言?迷言?をいったことがあります。

一時期の左翼は、共産主義の提唱者であるカールマルクスの「共産党宣言」は必読書というようなことがありました。

対して、右翼の場合、昔も今も”必ず読むべき本”は何も必要とされないことを揶揄したのです。

天皇制は過去から現代に至るまで制度的には、変わっていませんので、ソ連崩壊後大きく変容した左翼に比べ、右翼は本質的にはそれほど変化していません。

ただし、戦前に”天皇を神”として教育を受けた世代と戦後の”天皇の人間宣言”以降の教育をうけた世代では、同じ右翼といってもその天皇観に大きな差があります。

右翼陣営では、本格的なネット時代に入り、”ネトウヨ”という既存の右翼と異なる層が台頭してきたことが大きな変化です。

★過去から現在までの右翼の定義

日本の右翼の定義にとって最も重要なのは天皇制です。
まず天皇制ありきで国家体制はその次といったスタンスです。

世界的に右翼を見た場合、日本の右翼の特長は天皇制を崇拝していることが
最大の特長です。

この点で、国王がいないドイツやフランスの右翼が反ユダヤ・反移民というように民族主義的な愛国心がバックボーンとなっているのと大きな違いです。

右翼は、国家体制については、現状の自民党による政権、日米安全保障条約は支持。
憲法については、9条は改正するべきだという立場です。

歴史認識に関しては、韓国・中国の主張に批判的で靖国神社参拝は、積極的に行うべきというスタンスです。

ただ、日本特有なことは、左翼といった場合は、巷の市民、知識人等多様な人々をいイメージするのに対し、右翼といった場合、拡声器を使って自らの政治的主張をがなりたてる街宣車がイメージされることです。

左翼でも右翼でも実際に街頭で活動を行う人は少数派ですので、街宣車で活動する右翼は活動右翼ともいうべきかもしれません。

ですので、街宣車で活動する人々は、算数用語でいえば、右翼の部分集合といった捉え方をするのが正しいでしょう。

左翼にもかつては、過激派(法的には極左暴力集団と表現)といって、大企業のビル等にテロをしかけるような集団が存在していました。

特に日本赤軍という組織は、国際路線の旅客機を舞台にハイジャック事件を世界各国で次々と起こし、現代のイスラム国のように世界中を震撼させていました。

左翼陣営では、上述したように思想・行動が穏健化したこともあり、このような過激な集団の影響力は現代では、著しく低下しています。

令和改元の際に、天皇制反対を叫んだ集団は、今では珍しくなった左翼の集団、示威活動の事例です。行動左翼ともいうべき存在です。

ですので、相対的に右翼系の街宣車ばかり目立つという結果になっており、それが”右翼=街宣車”というイメージ形成につながっているとはいえると思います。

★ネトウヨと既存の右翼との違い

ネトウヨ(ネット右翼)と既存の右翼との違いは、ネトウヨのほうが民族主義的志向が強いことにあります。

ネトウヨの特長は、反韓国・反中国のように特定の国や民族をネット上で主として言論を用いて攻撃することが最大の特長です。

この点で、ネトウヨは、国王がいないドイツやフランスの右翼が反ユダヤのように特定の民族を攻撃するのと似ています。

ただ、ネトウヨは、”ネットで匿名でものが言えるから、意図的に過激なことを言うことで反響を得たい”という傾向が強いですので、ネトウヨのリアルな政治志向は、ネット上より穏健なケースが多いです。

既存の右翼も反韓国・反中国というスタンスは同じですが、それよりもまず天皇制崇拝ということが優先されるという違いがあります。




以上を踏まえて現代の日本における右翼と左翼の違いは、以下のようになります。

■現代の日本における右翼と左翼の違い

★天皇制について

・右翼  
支持もしくは現状より強化

・左翼  
護憲派は概ね支持、それ以外は反対もしくは現状より弱体化

★国家体制について

・右翼  
支持

・左翼  
自民党政権には反対、大枠の国家体制については、概ね支持。
ただし、日本共産党は共産主義体制を志向

★憲法改正について

・右翼
賛成

・左翼
反対

★自衛隊・日米安保体制について

・右翼
賛成もしくは現状より強化

・左翼
反対もしくは現状より弱体化

★靖国神社参拝について

・右翼
賛成もしくは現状より強化

・左翼
反対

★LGBTについて

・右翼
反対

・左翼
賛成

★夫婦別姓について

・右翼
反対

・左翼
賛成

★中国・韓国に対するスタンス

・右翼
批判的・好戦的

・左翼
融和的

★移民に対するスタンス

・右翼
反対もしくは批判的

・左翼
賛成もしくは融和的

■まとめ

①左翼は、1990年代初期にそれまでの反体制志向から”護憲・平和・少数者擁護”にその活動の軸足をシフト、現在に至っています。

②右翼は、天皇制崇拝・自民党による政権体擁護という一貫したスタンス。
右翼陣営の新種といえるネトウヨは、既存の右翼に比べ、民族主義的志向が強い。

③左翼と右翼の違いは時代により変化していますが、現代では、憲法改正や歴史認識に対するスタンスが最大の論点・違いとなっており、かつての国の基本的な体制をめぐる考え方の違い・対立に比べ過激さは少なくなってきています。



コメント

error: Content is protected !!
タイトルとURLをコピーしました