トランプ大統領を知らない人はいないでしょう。
でも、大統領制についてよくわからないという声をよく耳にします。
そこで大統領制の仕組みや議院内閣制との違い、そのメリットやデメリット、日本と大統領制についてわかりやすく説明します。
■そもそも大統領制とは?その制度や特長について
①大統領制は、国王(君主)がいない国にみられる政治体制で、大統領を国民が直接選出する国と国民議会によって選出される国があります。
②大統領が国家元首でない国はありません。いうなれば、選挙によって選ばれる国王(君主)のような存在です。
③同じ大統領制といってもアメリカのような権力者型、フランスのような半大統領型、ドイツのような名誉職型、エリトリアのような独裁者型というようにその権力の範囲や態様は国ごとに異なります。
大統領制というとじゃ議員内閣制とどう違うのか?と疑問に思う人も少なくないようです。そこで大統領制と議員内閣制の違いについてわかりやすく説明します。
■大統領制と議院内閣制の違いとは?
大統領制と議院内閣制の違いは、行政府のトップの選出方法と3権分立にあります。
①大統領制と議院内閣制の行政府のトップの選出方法の違い
大統領制において、大統領は、行政府のトップで、原則として国民による直接投票により選出されます。
対して、議院内閣制における行政府のトップである首相は、国民により選出された議会の議員により選出されます。
以上のように大統領制と議員内閣制では、行政府のトップの選び方に違いがあります。
②大統領制と議院内閣制の3権分立の厳密性の違い
大統領制も議院内閣制も行政権、立法権、司法権の3権分立による政治体制です。
しかし、議院内閣制では、行政権のトップである首相を立法権を構成する国会議員から選出します。
対して、大統領制では行政権のトップである大統領は、国会議員とは別に選出されます。
安倍首相は、行政府の長である一方、立法権の国会議員でもあります。
トランプ大統領は、行政府の長ですが、アメリカの上院議員でも下院議員でもありません。
従って、大統領制の方が議院内閣制よりも行政権と立法権が厳密に分立されていることが違いになります。
大統領制では、民主主義の根本ともいえる3権分立が厳密に区分されていることはわかったけど、他のメリットやデメリットは?
と考える人もいらっしゃると思います。
■大統領制のメリットやデメリットとは?
①大統領制のメリットとは?
・ドイツやイタリアのような政治的な実権がない名誉職型の大統領制の場合、外交儀礼等については国家元首である大統領が担当。
行政に関する実務は、首相が担当するというように権力が分散することで、効率的な国家運営ができることがメリットです。
・アメリカ、インドネシアやフランスの大統領のような強大な権力を保持する人物を国民が直接選出したり、任期に上限を設けることで、”その地位に相応しくない人物”を排除したり、”権力に制約を与えることで独裁者の出現を防ぐことが可能である”ことがメリットです。
②大統領制のデメリットとは?
・アメリカや韓国のような権力者型の大統領制の場合、任期が後半になるとどうしても影響力が低下しがちなことがデメリットです。
特に任期が残り1年を切ると、いわゆる政権が”死に体”となり外交等で大きな決断や交渉がしにくくなります。
・フランスのような大統領の他に行政府に首相がいる半大統領型の大統領制の国では、大統領の出身政党と対立する政党から首相が選出された場合、いわゆる”政権のねじれ”状態となり、国家運営に支障が生じる可能性があることがデメリットです。
・エリトリア、トルクメニスタンのような独裁者型大統領制の国のように、大統領を選出する仕組みがあっても、いざ就任するとその仕組みや憲法までも自分の都合のよいように運用するリスクがあることがデメリットです。
トランプ大統領について好き嫌いはかなりわかれるようですが、その権限の強さに着目して、日本でも大統領制をという声もなくはありません。
そこで、日本に大統領制を導入する場合の問題点についてまとめました。
■日本に大統領制はなぜないのか?
日本には、他の国では国王という位置づけの天皇が国家元首として存在しているため、大統領制という制度はありません。
中曽根首相時代、日本にも大統領制を採り入れたらどうかという議論が持ち上がったことがありましたが、”大統領制と天皇制は両立しない”という声が出て以来、全く話題にもならなくなり、現在に至っています。
行政府の長である首相を議会が選出する議院内閣制を基本としている日本の政治制度に大統領制はなじまない制度といえます。
さらにいえば、大統領制を導入しようとした場合、事実上の国家元首である天皇を扱いをどうするかという問題がたちはだかるため、日本に大統領制が導入される可能性はほとんどないといえます。
大統領制といっても国によって、その体制や大統領の位置づけはかなり異なります。
そこで主な国の大統領制についてまとめてみました。
■国によって異なる大統領制
大統領制は国によって位置づけ・選出方法が異なります。
アメリカのように国民が直接大統領を選ぶ国がある一方、国会議員によって選出される名誉職的な大統領制の国も存在します。
ここでは、話をわかりやすくするために主要な国で大統領制を敷く、アメリカ・フランス・ドイツ・ロシアの4カ国と世界的に特異な大統領制のエリトリアについて比較していきます。
★アメリカの大統領制の仕組みと特長
アメリカの大統領制は、国家元首であり行政府の長である大統領を、国民の直接選挙によって選出します。
アメリカ大統領は、民主主義国の中で最も権力を保持しているとされています。
任期は1期4年、上限は2期8年まで。
罷免されない限り、地位に留まることができます。
アメリカ大統領の主な権限は、以下の通りです。
①軍指揮権
アメリカ合衆国軍の最高司令官として軍指揮権(要するに攻撃命令を直接下せる権限)があります。
外国訪問中に核ミサイルの発射ボタンを押せるカバンを持ち歩いているのはこの為です。
②立法に関する権限
アメリカ合衆国連邦議会の上院・下院の両院を通過した法案への拒否権があります。
③執行権(行政権)
日本の最高裁に相当するアメリカ合衆国最高裁判所裁判官任命権。
国務長官や国防長官等の各省長官の罷免権等の権限を保持しています。
トランプ政権になってから、長官が次々とクビになっているのは、大統領に罷免権があるからです。
アメリカ大統領の権力が非常に強い背景としては、国民から直接選挙によって選ばれていることがあります。
実際、アメリカの大統領が議会で一般教書演説をする際、議員は、野次を一切いわないことになっています。
野次をすることは、大統領を選んだ国民を侮蔑することになるからだとされています。
以上のようなアメリカの大統領制は、国家元首と行政府の長を兼ねる権力者型の大統領制ということができます。
★フランスの大統領制の仕組みと特長
フランスの大統領制は、国家元首である大統領を、国民の直接選挙によって選出します。任期は1期5年、上限は2期10年までとなっています。
フランス大統領の主な権限は以下の通りです。
①軍指揮権
②国民議会の解散権
③外交権
フランスの大統領制の特長としては、アメリカと異なり行政府の長である首相が大統領とは別に存在することです。
このような仕組みから半大統領型の大統領制ともいいます。
フランス大統領は、行政府の長というより、行政・立法・司法の3権の上にたつ存在ということになります。
フランス首相は、大統領が任命する場合と国民議会の多数党が選出する場合があります。
従って、大統領の出身政党と国民議会の多数党が異なる場合には、いわゆる政権のねじれが生じます。
フランスでは、大統領が所属する政党と議会多数派が選出する首相の政党が一致しない“ねじれ”、いわゆる保革共存政権が実際に出現しています。
保革共存政権は、フランス語でコアビタシオンとよばれ、具体的には以下のような”ねじれ政権”が実現しました。
▼フランスの過去の保革共存政権
・1986年~88年
ミッテラン大統領(社会党)※左派 シラク首相(国民連合)※右派
・1993年~95年
ミッテラン大統領(社会党)※左派 バラデュール首相(国民連合)※右派
・1997年~02年
シラク大統領(国民連合)※右派 ジョスパン首相(社会党)※左派
★ドイツの大統領制の仕組みと特長
ドイツの大統領制は、国家元首である大統領を、連邦会議というドイツ連邦会議議員と州議会議員からなる会議によって選出されます。
任期は1期5年、上限は2期10年までとなっています。
ドイツ連邦共和国基本法で、大統領の権限は「中立的権力」と規定されているため、その権限は限定されています。
ドイツ大統領の主な権限は以下の通りです。
①特命全権大使の信任
②連邦議会に対する連邦首相候補の提案、任命及び罷免
③連邦首相の提案に基づく連邦各担当大臣の任命
上記のようにドイツの大統領は、単独の政治権力はほとんどなく、名誉職的な存在であることが特長です。
ドイツの外交をはじめとする行政は、行政府の長である首相(現在はメルケル首相)が担当しています。
★ロシアの大統領制の仕組みと特長
ロシアの大統領制は、国家元首である大統領を、国民の直接選挙によって選出します。任期は1期6年、上限は2期12年までとなっています。
ロシアの大統領制は、フランスの大統領制を参考にしたとされています。
ロシア大統領の主な権限は以下の通りです。
①軍指揮権
②国民議会の解散権
③首相の任命権
④議会で可決された法案の拒否権
ロシアの大統領制の特長としては、フランスと同じように行政府の長である首相が大統領とは別に存在することです。
このような仕組みから半大統領型の大統領制ともいいます。
ただし現行のロシアの首相は、プーチン大統領の操り人形的な存在に過ぎず、フランスにおける大統領と首相の権力の住み分けが出来ているとは言いがたい体制となっています。
ですので、ロシアの大統領制は仕組みとしては、フランスの半大統領型であるものの大統領の権限が強いという点では、権力者型のアメリカ型に近いものとなっています。
★エリトリアの大統領制の仕組みと特長
エリトリアの大統領制は、国家元首である大統領を、国民議会により選出されることとなっていますが、憲法自体が未だに未施行のため、1993年のエチオピアからの独立以来、初代大統領でPFDJ書記長のイサイアス・アフェウェルキが現在に至るまで就任し続けています。
エリトリアには、首相職が存在しないため全般的な行政権を保持する等、強力な権限を持ちます。
また、大統領がトップを兼ねている政権党である”PFDJ(民主主義と正義のための人民戦線)”による一党制のため、その実態は独裁者型となっています。
以上のように大統領制といっても国により、権力者型、半大統領型、名誉職型、独裁者型その態様は様々です。
具体的には以下のようになります。
■国よって異なる大統領制
①権力者型大統領制の国
アメリカ、フィリピン、インドネシア、ブラジル、メキシコ
②半大統領型の大統領制の国
フランス、ロシア、トルコ、韓国
③名誉職型の大統領制の国
ドイツ、イタリア、イスラエル
④独裁者型の大統領制の国
エリトリア、トルクメニスタン、ベネズエラ
■まとめ
大統領制についてまとめると以下のようになります。
①大統領制は、国によって選出方法、保持する権力が異なること
②大統領制を採る国で共通していることは、”大統領=国家元首”であること
③大統領制はその態様により、権力者型、半大統領型、名誉職型、独裁者型の4つに分類されること
また、大統領制と議員内閣制との違いは以下のようになります。
①行政府のトップの選出方法が異なること
②大統領制の方が行政権と立法権力を厳密に区分していること
大統領制が国家の仕組みとして正常に機能するためには、まず第一に国民や議会による公正な選挙が行われること、次に憲法をはじめとした司法権が権力者である大統領を監視する仕組みが確立されているかどうかに左右されているといえそうです。
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