社会主義と共産主義の違いを歴史的経緯と政治体制からわかりやすく解説

政治用語の違い
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社会主義という考え方が歴史的に初めて登場したのは、19世紀初頭の産業革命期です。

ロバート=オーウェンというイギリスの社会改革家、実業家が当時の資本家に経済的に搾取される労働者の苦境に心を痛めて、資本家と労働者が共同で経営する工場や労働組合を作ったりすることで社会を改良していくことを考えたことがきっかけで初めて社会主義的な考え方が登場しました。

ただ、オーウェンの考えた社会主義は、資本主義の体制維持を前提としたものであったため、後に現代の共産主義のバイブル的な存在となる共産党宣言を著したカール・マルクスらから、空想的社会主義と批判されました。



■空想的社会主義から社会主義へ

共産党宣言を著したマルクスとエンゲルスは、人類の歴史の発展過程について
科学と同じように発展法則があると唱え、人類社会は以下のような発展過程をたどるとしました。

★マルクスとエンゲルスが唱えた人類社会の発展過程

資本主義的社会⇒社会主義社会⇒共産主義社会

マルクスとエンゲルスは、資本主義は発展するにつれて、生産力等の規模が巨大となり、次第に資本家の手に負えなくなり、また、労働者に対する経済的な搾取もひどくなり、社会による管理が必要になると見通しました。

そして、管理の担い手が労働者階級(プロレタリアート)となることによって、資本主義から社会主義への移行が実現するとしました。
特にマルクスは、資本主義社会から共産主義社会への移行は歴史的必然とまで断言しました。

※ヨーロッパ諸国における社会民主主義と社会主義・共産主義との違い
ドイツ等のヨーロッパ諸国には、伝統的に社会民主党と標榜する政党が一定の勢力と支持を得ています。

これらの政党が唱える社会民主主義は、資本主義体制を前提としたうえでの社会の改革を目指すという点で、社会を体制そのものから変革するという考え方の社会主義・共産主義とは根本的に異なります。



■社会主義と共産主義の関係

世界初の社会主義国は、ロシア革命を経て、ロシアで誕生。

レーニンらが主導する当時の共産党が政権を奪取して、国名もソビエト社会主義共和国連邦に変更されました。

ここで注意したいことは、ソビエト共産党が政権をにぎりましたが国名は共産主義共和国連邦ではなく社会主義共和国連邦となったことです。

ソビエト共産党をはじめとする共産主義者は、マルクスとエンゲルスが唱えた人類社会の発展過程(社会主義社会⇒共産主義社会)を信奉する人たちですので、究極的に共産主義を目指すための第一歩として社会主義国を設立したのです。

国名が、ソビエト共産主義共和国連邦とならなかったのは、そのためです。

つまり、社会主義と共産主義の違いとは、マルクスらが唱える人類社会の発展過程の違いによるものです。

魚に例えると社会主義と共産主義の関係は出世魚のような関係に近いです。

社会主義が発展(出世)すると共産主義(最終的な名前)になるというような関係ととらえるとわかりやすいかもしれません。。

共産主義の思想によれば、社会主義社会が究極的に進化することで、共産主義社会が実現し、人々は本当の自由を手にすることが出来、最終的には国家は消滅すると考えたのです。

実際に社会主義大国時代のソビエト連邦の国歌では、”レーニンの党(共産党)と人民の力で共産主義の勝利に導く”という歌詩があり、
ソ連の最終的な目的が共産主義の実現にあったことが窺えます。

★メモ 政治体制からみた資本主義・社会主義・共産主義の違い

・社会主義国の政治体制
社会主義体制の国は、共産党以外の政党は認められません。
共産党が一党独裁で国家を指導するという政治体制が最大の特長です。

この点で、2大政党制のアメリカ、複数政党による議会制民主主義によるイギリスや日本等と根本的に体制が異なります。

・共産主義社会における政治体制
マルクスらの考え方によれば、社会主義が進展し共産主義社会が実現すると国家が消滅し、支配政党もなくなるという見立てでしたが、これまで実現した国は出現していません。

★メモ 日本の政治における社会主義・共産主義

日本の政治において、社会主義・共産主義の担い手とされてきたのは、日本共産党と旧社会党の左派の社会主義協会派です。

このうち、日本共産党はソ連を本部とする国際共産主義連盟の支部という位置づけで活動していた時期もあります。

しかし、世界的にみたときに先進国のうち、フランスやイタリアの共産党が最盛期に国会で多数の議席を獲得して、1970年代から80年代の一時期に多大な影響力を保持していたのに対し、日本共産党は現在に至るまで、多数派を形成できていません。

先進国の中で見たときに、日本は共産主義への支持が一貫して低い国と看做されています。

ちなみにアメリカにも共産党という政党はありますが、これまで一度も議席を獲得したことはありません。



現在の日本の政党で、社会主義・共産主義の実現を目的としているのは日本共産党のみです。

現行の日本共産党の綱領(会社でいえば経営方針に相当)によれば、日本で社会主義・共産主義が実現すると以下のような体制・社会になるとしています。

■日本共産党の綱領にみる社会主義・共産主義の日本

社会主義・共産主義の日本では、民主主義と自由の成果をはじめ、資本主義時代の価値ある成果のすべてが、
受けつがれ、いっそう発展させられる。

「搾取の自由」は制限され、改革の前進のなかで廃止をめざす。

搾取の廃止によって、人間が、ほんとうの意味で、社会の主人公となる道が開かれ、

「国民が主人公」という民主主義の理念は、政治・経済・文化・社会の全体にわたって、社会的な現実となる。

 さまざまな思想・信条の自由、反対政党を含む政治活動の自由は厳格に保障される。

「社会主義」の名のもとに、特定の政党に「指導」政党としての特権を与えたり、
特定の世界観を「国定の哲学」と意義づけたりすることは、日本における社会主義の道とは無縁であり、きびしくしりぞけられる。

社会主義・共産主義の社会がさらに高度な発展をとげ、搾取や抑圧を知らない世代が多数を占めるようになったとき、

原則としていっさいの強制のない、国家権力そのものが不必要になる社会、人間による人間の搾取もなく、抑圧も戦争もない、真に平等で自由な人間関係からなる共同社会への本格的な展望が開かれる。

 人類は、こうして、本当の意味で人間的な生存と生活の諸条件をかちとり、
人類史の新しい発展段階に足を踏み出すことになる。

※出典:日本共産党 党綱領
綱領をみると、最終的にはやはり、国家権力そのものが不必要になる社会を目指していることがわかります。

日本共産党は、21世紀になっても”最終的な共産主義社会=国家権力そのものが不必要になる社会”と捉えているようです。

また、かつての師匠であったソ連の失敗を反面教師としたのか、
”「社会主義」の名のもとに、特定の政党に「指導」政党としての特権を与えたり、
特定の世界観を「国定の哲学」と意義づけたりすることは、日本における社会主義の道とは無縁”と表明しています。

ちなみに日本共産党は、現在においても綱領で”共産主義社会を目指す”としているために、
革命政党と看做され、公安当局の監視対象にされています。

また、このことが共産党を忌み嫌う、いわゆる共産党アレルギーの要因となっています。


■共産主義・社会主義の理解を深めるのに役に立つ本一覧

★日本共産党の研究(1)~ (3)(講談社文庫) [ 立花隆 ]

主題は日本共産党の歴史ですが、ロシア革命やマルクス思想、共産主義の問題点等にも言及していますので共産党や共産主義に関する知識も自然と深まります。

1970年代に出版された本ですが、本書を読めば”組織としての共産党の仕組みや、なぜ共産主義がうまくいかなかったのか”ということがよく理解でき、後のソ連崩壊を予見したような内容になっています。

著者が学者ではなくジャーナリストであることで、著述内容が全般的に非常にわかりやすくなっています。

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★共産主義者宣言 (平凡社ライブラリー) [ カルル・ハインリヒ・マルクス ]

共産主義において、キリスト教における聖書のような存在。
かつての共産主義志向の人にとっての必読書の一つ。

★共産党宣言・共産主義の諸原理 (講談社学術文庫) [ カール・ハインリヒ・マルクス ]

共産主義において、キリスト教における聖書のような存在。
かつての共産主義志向の人にとっての必読書の一つ。

■社会主義と共産主義の違い まとめ

社会主義と共産主義の違いを一言でいうと共産主義者が構想した社会の発展過程の違いです。
社会主義が発展の過程で、共産主義が最終的な形態ということになります。

人類初の社会主義国の旧ソ連も共産主義社会を実現できないまま、崩壊しました。

また、中国共産党が支配する中国も最早、社会主義ではなく国家資本主義的な社会となっており、共産主義社会を実現できていません。

また、同じく共産党が支配するベトナムも中国と似たような状況です。

以上のように歴史的にみれば、社会主義社会を実現した国はあるものの
共産主義社会を実現した国は、現在まで一つもありません。

そもそも、マルクスやエンゲルスは、社会主義社会はイギリスやドイツのような高度な
資本主義国でまず実現すると予言していました。

しかし、実際にはヨーロッパでは後進国とされていて実態は農業国であったロシアで最初に社会主義が実現しました。

ついで、やはり農業国で経済的には遅れていた中国で社会主義社会が実現と、マルクスやエンゲルスの予想は外れました。

その後も、日本を含むいわゆる先進資本主義国で、社会主義体制に移行した国は
一つも誕生しませんでした。

以上のような経緯から、現代では社会主義体制(過渡期の体制)から共産主義社会(究極の体制)に進むとする考え方を基盤とする共産主義的な思想は、歴史的遺物と化し、世界的な影響力を失っています。

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