随意契約とは?入札との違いやアベノマスクの問題点を実務経験者がわかりやすく説明

入札に関する情報

2020年のコロナ禍で話題となった”アベノマスク”で一躍、注目を集めた随意契約について、実務担当者としての経験に基づいてわかりやすく説明します。



随意契約とは要するに何?

随意契約とは、要するに何?

国や地方自治体が工事・物品購入・物件借入・不動産購入等に関わる
契約の相手方を入札公告による一般競争入札や指名競争入札ではなく、任意に特定の企業を選択・決定する契約のことを意味します。

”任意に特定の企業を選択・決定”とは要するに国や地方自治体が、”過去の付き合いや実績等から信頼できると判断した会社”を独自に選定できるということを意味します。

国や地方自治体は、入札による契約を原則としており、随意契約は例外的な契約方法と位置づけられています。

随意契約の流れ

随意契約は入札方式ではなく、特定の企業間における見積合わせにより、業者を決定します。
※特定の企業は、国や地方自治体の担当部署の裁量で、過去の実績や規模等により、独自に選定します。

見積合わせ・コンペ方式
(参加企業が見積書を国や地方自治体添付ファイルもしくは持参で送付、それを審査する形式で行われています。)

※参加をよびかける業者の選定・指名方法は、個別の中央官庁・自治体の規定に基づいて行われます。
    ↓
業者決定
※入札と異なり、最低金額を提示した企業が選ばれるとは限りません。
    ↓
契約の締結



少なくなりつつある随意契約の位置づけ

平成18年8月に当時の谷垣財務大臣名で通達された”公共通達の適正化”において、価格競争が働きにくい随意契約について、極力減らすべきとの指針が提示されました。

税金という公金を使う立場から、国・地方自治体は、入札金額の適正化が働きにくく、また、業者との密着・談合等の温床になりやすい随意契約は、好ましくない・減らすべき契約形態と捉えていることが背景にあります。

これ以降、国・地方自治体における随意契約は一貫して減少傾向にあります。

現在では、正当な理由なく随意契約で契約することは、出来なくなっています。

随意契約における制約とは?

そもそも”随意”という言葉は、”束縛や制限を受けないこと”、”思いのままであること”を意味します。

しかし、国・地方自治体における随意契約は全く制約がないわけではありません。

例えば、さいたま市では随意契約ができる場合を以下の条件にあてはまる案件に限定しています。

※さいたま市が随意契約ができる場合として設定している条件

①少額の契約

金額が少額の契約についてまで全て、一般競争入札にすると事務負担が増大になり、また時間的な余裕がない案件に機動的に対応できなくなる等の理由として、さいたま市では以下のように随意契約ができる場合の具体的な金額を提示しています。

・工事または製造の請負 250万円以下

・財産(公有財産、物品、債権、基金)の買い入れ 160万円以下

・物件の借り入れ 80万円以下

・財産の売却   50万円以下

・物件の貸付   30万円以下

上・記以外のもの 100万円以下

②競争入札に適さない契約

主な例

・特許工法等の新開発工法等を用いる必要のある工事

・ガス事業法等の規定により、施工者が特定される工事

・試験問題の印刷等、高度な秘密保持が要求される業務

・健康診断等、地域性の強い業務

・価格競争が生じない契約
郵便はがき、切手、収入印紙、官報、新聞等の購入

③緊急に必要な契約

主な例

・感染症発症時において、緊急におこなわなければならない蔓延防止のための薬品、衛生材料を買い入れる場合

※2020年のアベノマスクは、”緊急に必要な契約”に該当したため、随意契約となりました。

・堤防崩壊、道路陥没等の災害に伴う応急工事

・停電等の電気、機械設備等の故障に伴う復旧工事

上記の他に”競争入札に付することが不利なもの”、”時価に比して著しく有利な価格で契約できるもの”等について規定しています。




2020年のコロナ禍初期にアベノマスクが随意契約で発注されていたことで論議になりました。

これまで説明させていただきましたが、国が随意契約を結ぶことが可能なのは、①緊急性が著しく高いこと②信頼・実績のある企業と契約を結ぶことの条件に当てはまる場合に限られます。

アベノマスクについて、この2条件について考察すると以下のようになります。

アベノマスクの随意契約の問題点とは?

①緊急性が著しく高いこと

緊急性が著しく高いことについては、代表的な事例として
”感染症発症時において、緊急におこなわなければならない蔓延防止のための薬品、衛生材料を買い入れる場合”があります。

コロナ禍初期ですので感染症発症時は該当しますが、問題はマスクが緊急におこなわなければならない蔓延防止のための衛生材料に相当するのかという点です。

当時、全国的にマスクが不足していましたが、マスクがコロナ感染防止に役に立つかどうかについては、新型コロナがまだ未知のウイルスだったこともあり、医学関係者の中でも見方が分かれていました。

また、品不足といっても全く手に入らないわけではありませんでしたので、緊急性については疑問点が多いです。

②信頼・実績のある企業と契約を結ぶ

アベノマスクは、興和=約76・3億円、ユースビオ=約31・8億円、伊藤忠商事=約31・1億円、マツオカコーポレーション=約9・6億円、シマトレーディング=約3・1億円、横井定=約0・1億円の社が随意契約で受注しました。

このうち、ユースビオは2017年に創業した再生可能エネルギー原料の販売会社で資本金は1千万円。シマトレーディングは植物の輸入商社。両社とも法人登記にマスク関連の事業は記載されていません。

ですのでこの2社については、”マスク製造について信頼・実績のある企業”とは言い難く、なぜこの2社が随意契約の対象となったのか疑問が残ります。

以上からアベノマスクの随意契約については、政府自体が通達で好ましくない随意契約としている条件にあてはまると言わざるを得ません。




これまで、随意契約について説明させていただきましたが、競争入札においても随意契約となる場合があります。

競争入札で随意契約となるケースの具体的な例とは?

そもそも入札は、随意契約に相応しくない案件について実施されますが、入札では落札者がいない場合に限り、例外的に随意契約が認められることがあります。

落札者がいない場合とは

国・地方自治体が入札案件について、入札公告に付して複数社が入札に参加、応札したものの、いずれの社の入札金額が”予算金額内に収まらない”ので、再度入札を繰り返しても、予算金額をオーバーする応札しかない場合に随意契約が認められることがあります。
この場合、国・地方自治体は、応札社のうち、最も低額な金額で応札した企業に個別に交渉をして、随意契約を結ぶという流れになります。

経験からですが、企業側にも譲れない金額はありますので、仕様書で規定された業務内容の変更等でお互いの落としどころを探ったうえで合意を目指します。

この際、国・地方自治体は、規定により、予算金額を増額することは出来ませんので、譲歩可能なことは、”業務内容の変更・軽減”に限られます。

国・地方自治体と企業のあいだで合意が形成されると随意契約として契約の運びになります。

随意契約について、発注する側の国・地方自治体のメリット・デメリット、受注する側のメリット・デメリットは、以下のようになります。

随意契約のメリット・デメリット

国・地方自治体のメリット・デメリット

・メリット
アベノマスクのように緊急を要する案件等について、契約までの時間を短縮することが可能なこと

入札に比べ業務負担が軽いこと

信頼する企業の中から業務を発注可能なこと

・デメリット
緊急の場合を除き、予算規模の小さな案件しか契約できないこと

価格競争が入札に比べ働きにくいこと

受注業者側のメリット・デメリット

・メリット
入札と異なり、限られた企業間での競争となるため、受注できる確度が高いこと

一度受注すれば、継続的に仕事を得られる可能性が高いこと

・デメリット
予算規模の小さな案件に限られるため、利益の面からのうまみが少ないこと

入札に比べて、業者の決定方法が不明確なこと

まとめ

①随意契約とは、国や地方自治体が工事・物品購入・物件借入・不動産購入等に関わる
契約の相手方を入札公告による一般競争入札や指名競争入札ではなく、任意に特定の企業を選択し、入札ではなく見積合わせ等で決定する契約のことを意味します。

②随意契約は、入札に比べ価格競争が働きにくいこと、業者と癒着し談合等の温床になりやすい等の理由から、現在は、正当な理由がない限り、認められない契約方法となっています。



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