ナイルパーチの女子会(柚木麻子/文藝春秋)を読んだ感想やあらすじ

書評

ナイルパーチの女子会を読んだ感想やあらすじを紹介します

作品の属性情報

柚木麻子、文藝春秋、2015年3月28日刊行

この作品を読んだ動機

当書のあらすじを読み、人間関係に悩むことの多い自分と主人公が重なり、読んでみたくなりました。

あらすじ

 
大手商社に勤める栄利子、主婦ブロガーの翔子と偶然出会った二人はその日のうちに意気投合します。

友達になるはずだった二人ですが、思いはすれ違い、栄利子は翔子を自分の理想通りの友達としてコントロールしようとします。

思い通りにならない翔子に執拗に執着するあまり、行動がエスカレートする栄利子、やがてそれは社会人としての生活も蝕んでいき休職することに。

一方翔子は主婦ブロガーとして出版社の花井に本を出してみないかと誘われます。

しかし人気主婦ブロガーの世界に入ってみると、そこは啓蒙欲と自己承認欲にまみれた主婦ばかりで翔子は馴染むことが出来ません。

そんな時に声をかけてくれた人気ブロガーNORI。

翔子はすっかり彼女に依存し、相談に乗って欲しいと何度も催促した結果、花井からNORIに干渉しないよう忠告を受けます。

夫との関係も危うくなり、実家と上手く付き合えない翔子は本当に大切なものが何であるかに気づきます。

その頃、栄利子も友達のまえに家族と向き合うことが必要だったと気づき、
それぞれが大切な存在との関係の修復へ進んでいきます。

女友達とは何かを鋭く描いた作品です。



感想

 
友達が少ない私にとって、親友という存在を渇望する主人公の栄利子は、自分と重ねてしまうところが多々あり、読んでいて苦しささえ感じました。

冒頭で栄利子が添加物まみれの菓子パンを口にし、学生の頃を回想するシーンがあります。

栄利子は母の躾で体に悪い菓子パンを禁じられていましたが、それで空腹を満たす同級生の呑気さが羨ましかったと思い出します。

彼女は裕福な家庭で何不自由なく育てられてきましたが、それは彼女がこれまで苦労から徹底して守られてきたということ。

菓子パンはその苦労の比喩表現のように感じました。

本来は苦い体験を繰り返し、自然と身に着いていく人間関係の処世術を知らずに育ってきたことを表すエピソードだと感じました。

栄利子は憧れのブロガー翔子に出会ってから、翔子に理想の友達像を押しつけて彼女を追い詰め、やがて自分自身さえも追い詰めていく様は恐ろしく、
過去の自分にもそんな一面があったとしたらどうしようと記憶を辿らずにはいられませんでした。

翔子は栄利子を受け入れられない理由が、他人との距離の測り方がわからないところが似ているという同族嫌悪によるものだったと気づく場面があります。

ここで翔子はやっと、栄利子という人間が他人の期待に応えることに必死で、孤独から友達という存在に縋るしかなかったのだと理解したのだと思います。

派遣社員の真織が「男と男、女と女、男と女、どんな関係でも形を変えて距離を測ったり手入れしながら辛抱強く続けていくしかない」と吐き捨てたところが、
人間関係の真理を突いているようで記憶に残りました。

面倒事を排除して全てが満たされる関係など無いのかもしれないと気付かされました。

真織のお土産を見て、栄利子は自分に他者への配慮があったかと振り返ります。このような面倒ともいえる気遣いの積み重ねの先に友情が生まれるのかもしれないと思いました。

だからこそ親友とは得難く、尊い存在なのかもしれません。

最後に昔の栄利子の親友、圭子とファミレスで語り合うシーンでは、圭子が栄利子から離れた理由が語られ、
栄利子はやっと自分を受け入れることができ長年の執着から解放されたように思えました。

夜明けの描写も栄利子の再生を表しているようでとても清々しいラストだったと思います。

総合評価:95点/100点




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