将棋フリークラスとは?そのメリット・デメリットと昇級規定をアマ強豪?の三段がわかりやすく説明

将棋に関する情報

プロ将棋界の中には、「フリークラス」という階級があります。

将棋にあまり詳しくない人だと聞き馴染みのない言葉だと思いますが、この記事ではそんなフリークラスについて、アマ強豪?の三段がわかりやすく解説していきます。



将棋フリークラスとは?

将棋フリークラス制度の概要

プロ将棋界の中には、名人、A級以下、B級1組、B級2組、C級1組、C級2組というクラス分けがあります。

いずれのクラスにも属さず、順位戦を戦わない棋士たちが所属しているのがフリークラスです。

では、フリークラスの棋士たちはどのような経緯でフリークラス所属に至るのでしょうか?
大きく分けると3パターンあります。

・順位戦C級2組からの降級
・奨励会か編入試験から編入
・「フリークラス宣言」を行ない、本人の意思によって転出

経緯によって、「転出」、「降級」、「編入」など、フリークラスに入ることを表す言葉が使い分けられています。

将棋フリークラス制度の目的とは

フリークラス制度は1994年4月1日から発足した、棋士が公務や普及活動に専念できる環境を作るために設けられた制度です。

プロ棋士は競技としての将棋だけでなく、将棋に関する執筆活動や、初心者やプロ志望の子への指導だったり、も行っています。

このように対局以外ことに時間を使ったり、集中しやすくするために作られた制度です。

フリークラスに転落するとどうなる?

順位戦の一番下のクラス、C級2組順位戦から降級すると、フリークラスの所属になると先ほど説明しました。ではフリークラスに転落するとどうなるのでしょうか?

フリークラス棋士は順位戦に出場できません(その他の棋戦には出場可)。

一方、フリークラス宣言による場合は、二度と順位戦に出場することができず、引退するまでフリークラス在籍となります。

棋士の多くは幼い頃から、将棋界の頂点である、「名人」というタイトルにきっと憧れていたことでしょう。

しかし、名人戦は順位戦に出場していないと挑戦資格が得られませんので、フリークラス宣言は名人になる夢を諦めることになってしまいます。

森内俊之九段はA級からB1級に陥落したときにフリークラス宣言をしました。

森内九段はその時点で名人位5期獲得していて、引退後に永世名人を襲名する資格を得ていますので、今更、名人位を獲得するというモチベーションがなくなったからフリークラス宣言をしたのではないかという見方が有力です。

ただ、同じく永世名人を襲名する資格を得ている羽生九段は、2022年からB1級に陥落しましたが、フリークラス宣言をせず、現役を続行しています。



フリークラスの棋士一覧

令和3年(2021)4月1日現在のフリークラス棋士は以下の通りです。
棋士番号 フリークラス入り   前回の昇段   在籍残り年数  通算成績
93 桐山清澄 2020- 4- 1 1984-10- 9 九段 (引退へ) 995勝955敗

123 小林健二 2018- 4- 1(宣言) 2002- 3- 1 九段 1年 697勝762敗

128 東和男 2008- 4- 1(宣言) 2015- 4- 1 八段 (引退へ) 479勝680敗

135 福崎文吾 2021- 4- 1(宣言) 2005-10-28 九段 4年 667勝767

138 脇謙二 2019- 4- 1(宣言) 2021- 4- 1 九段 5年 645勝695敗

144 泉正樹 2019- 4- 1(宣言) 2013- 7- 4 八段 5年 618勝663敗

149 神谷広志 2020- 4- 1(宣言) 2014- 5- 1 八段 6年 581勝670敗

151 西川慶二 2015- 4- 1 2018- 4- 1 八段 1年 503勝610敗

153 室岡克彦 2012- 4- 1(宣言) 2002- 5-30 七段 3年 448勝607敗

158 有森浩三 2007- 4- 1(宣言) 2000- 9- 7 七段 4年 522勝493敗

162 浦野真彦 2017- 4- 1(宣言) 2012- 9-14 八段 8年 529勝600敗

167 小林宏 2011- 4- 1(宣言) 2009-11-25 七段 6年 432勝552敗

172 所司和晴 2010- 4- 1(宣言) 2005- 4-27 七段 5年 392勝526敗

177 石川陽生 2015- 4- 1 2007-10-23 七段 2年 498勝536敗

179 神崎健二 2018- 4- 1(宣言) 2016- 8-15 八段 8年 590勝546敗

183 森内俊之 2017- 4- 1(宣言) 2002- 5-17 九段 15年 932勝590敗

187 木下浩一 2009- 4- 1(宣言) 2017- 4- 1 七段 4年 349勝483敗

188 小倉久史 2016- 4- 1 2005-10-24 七段 5年 533勝506敗

190 藤原直哉 2017- 4- 1 2013- 6-19 七段 5年 452勝507敗

206 川上猛 2013- 4- 1 2017-10-17 七段 2年 413勝403敗

209 岡崎洋 2018- 4- 1 2018- 2-19 七段 7年 393勝433敗

215 勝又清和 2015- 4- 1(宣言) 2020- 4- 1 七段 10年 344勝383敗

216 松本佳介 2013- 4- 1(宣言) 2008- 7- 1 六段 8年 334勝355敗

219 中座真 2021- 4- 1 2007- 9-20 七段 9年 404勝397敗

225 増田裕司 2015- 4- 1 2009- 9-11 六段 4年 326勝331敗

228 伊奈祐介 2014- 4- 1 2019-10-23 七段 3年 331勝316敗

229 山本真也 2010- 4- 1(宣言) 2016- 4- 1 六段 6年 233勝301敗

232 金沢孝史 2005- 4- 1(宣言) 2006- 7-10 五段 (引退へ) 203勝275敗

238 上野裕和 2013- 4- 1 2019- 4- 1 六段 2年 195勝284敗

242 村田智弘 2021- 4- 1 2019-12-18 七段 10年 289勝305敗

243 大平武洋 2021- 4- 1 2016- 1- 8 六段 10年 254勝312敗

245 藤倉勇樹 2010- 4- 1 2012- 4- 1 五段 (引退へ) 167勝233敗

247 島本亮 2020- 4- 1 2011- 7-12 五段 9年 206勝279敗

273 渡辺正和 2019- 4- 1 2012-10-22 五段 8年 174勝191敗

321 折田翔吾 2020- 4- 1 2020- 4- 1 四段 9年 12勝9敗

326 古賀友聖 2020-10- 1 2020-10- 1 四段 10年 7勝4敗



将棋フリークラスの棋士にとってのメリット・デメリット

メリット

メリットを大きく分けると2つあります。

一つは、すでに引退の危機にある棋士の場合、引退までの期間が延びる、というもの。

もう一つは、順位戦の対局がない分、他のことに時間を割くことができる、というものです。 
〇メリットその1:降級よりは引退までの期間が長い                                               
引退までの期限は、順位戦C級2組からフリークラスに降級した場合と、フリークラス宣言によって転出した場合で異なります。

転出の方が、引退までの期間が長いので、順位戦で降級しそうな場合、自分からフリークラス棋士になる選択をする場合もあります。

〇メリットその2:指導や執筆活動などに専念できる
実は、プロ棋士が収入を得る手段は、対局だけではありません。

高い専門性があれば、他にも色々なことができるのです。例えばどんな活動があるのかというと、次の通りになります。
・将棋教室などでの、子どもやプロを目指す人への指導
・棋書や観戦記などの執筆活動
・詰将棋や次の一手、問題などの作成

デメリット

対局料や給料も減ってしまう可能性があるため、一見するとかなり損なような気もするのですが・・・。

デメリットも大きく分けると2つあります。

一つは、対局料や給料が減ってしまう、というもの。

もう一つは、引退までの期間がきまている、というものです。 

〇デメリットその1:順位戦からの給料(固定給)が出ない
公式棋戦での対局は勝っても負けても対局料が出ます。

順位戦はリーグ戦で、年間10局くらいは対局できます。

順位戦での対局料というのは、固定給のようなもので、対局がない月で貰えるようになっているので、とにかく順位戦にさえ参加していれば、どんなに負けていても無収入の月はない、ということになります。

しかし、トーナメント方式の棋戦はそうではないのです。

トーナメント方式なので、負けてしまうと敗退となり、また来期となってしまうこともあるので、初戦敗退者は1年に1局しか対局できないことになります。

〇デメリットその2:.引退までのカウントダウンが開始される
フリークラスでないプロ棋士であれば、定年とされるような年齢を超えても、現役でいることが可能です。(例えば、加藤一二三九段は77歳まで現役を続けていました。)

しかし、フリークラス棋士は、原則として引退までの期間が決まっています。 

フリークラスから抜け出して順位戦に戻ることができれば、カウントダウンがリセットされますが、先ほども説明したように、フリークラス宣言した棋士は、順位戦への復帰が二度とできないという規定になっています。

したがって、フリークラス宣言は実質、引退宣言ということになります。



プロ養成機関奨励会からフリークラスになる方法と規定

まず簡単に奨励会とはどんな場所なのかを説明します。

奨励会とは、プロ棋士を養成するために設置されている機関です。

全国から才能を持った少年少女が集まり、自分の人生をかけて戦います。

奨励会は、6級~3段までの段級があります。

入会後に勝利を重ね三段まで昇段すると、「三段リーグ」というリーグ戦に参加することになります。

では、どうすれば奨励会からフリークラス編入できるのでしょうか?

三段リーグで、次点を2つ取ると、「フリークラス編入」の権利が獲得できます。

次点とは「三段リーグ」で3位になった人に与えられるボーナスポイントのことです。

通常の四段昇段であればC級2組順位戦からのスタートであることを考えると、やや分が悪いプロデビューとなってしまいます。

将棋フリークラスから脱出する方法とは

フリークラスから脱出する勝敗規定について

フリークラスから昇級するためには、下記の条件のうちいずれかを満たさなければなりません。

1.勝率6割以上かつ勝数が「参加棋戦数+8」以上となる単年度成績を修めた場合

2.良い所取りで連続30局以上での勝率が6割5分以上となった場合

3.年度対局数が「参加棋戦数+1」の3倍に達した場合

4.全棋士参加棋戦で優勝し、又はタイトル挑戦を決めた場合

好成績を挙げれば脱出できるといっても、簡単に勝てる実力があるならそもそもフリークラスに来ることはないので、かなり厳しい条件になっています。

その中でも2番目の条件が比較的達成しやすい条件とされていますが、1年を超える期間で長丁場に耐える必要があります。

事実、フリークラスの制度が誕生して以降、降級後に再びC級2組へ復帰出来た事例は僅かで、茨の道となっています。



フリークラスから脱出した棋士の事例

史上初のフリークラス脱出を果たした伊奈七段を紹介します。

奨励会三段リーグで、次点を2回となった者はフリークラス編入の権利が得られるという規定が新設されてから、その権利を行使した最初の人でもあります。

1998年4月、当時22歳の伊奈氏は次点2回でフリークラス編入。

2001年度の竜王戦6組ランキング戦では、4回戦で渡辺明に勝ち、2001年5月7日の準決勝戦では伊藤能に勝利。

この勝利に伴い「直近30戦以上で勝率6割5分以上」の基準を満たし、フリークラスから順位戦C級2組への昇級を果たしました。

きっと昇級までに多くの葛藤がきっとあったことでしょう。

フリークラス棋士は順位戦に参加できないと10年で引退に追い込まれてしまいます。

また、対局料などの待遇でも他の棋士と比較してだいぶ差がついていたでしょう。

まとめ

将棋の「フリークラス」について今回まとめてきました。

フリークラス制度は、引退というネガティブな問題が関わる上に、何より規定が色々と複雑なので、将棋が詳しくない方に説明するのは大変ですよね。

今回のまとめで少しでも分かって頂けたら幸いですが、いかかでしたでしょうか?
最後に振り返りとして、今回解説した「フリークラス」のポイントをまとめます。

①フリークラスとは
名人、A級以下、B級1組、B級2組、C級1組、C級2組というクラス分けの中で、
いずれのクラスにも属さず、順位戦を戦わない棋士たちが所属しているクラス。

②フリークラス所属に至る経緯
・順位戦C級2組からの降級
・奨励会か編入試験から編入
・「フリークラス宣言」を行ない、本人の意思によって転出

③フリークラスのメリット
・降級よりは引退までの期間が長い
・指導や執筆活動などに専念できる

④フリークラスのデメリット
・順位戦からの給料(固定給)が出ない
・引退までのカウントダウンが開始される

フリークラス棋士は順位戦に参加出来ないので、なかなかマイナーな世界ですが、注目してみるとより将棋界が面白くなるかもしれませんね。



コメント

error: Content is protected !!
タイトルとURLをコピーしました