資本主義という言葉、新聞等で目にする機会が多く半ば日常用語化しています。
でも、改めて”資本主義とは?”と問われて、正確に答えられる人は少ないのではないでしょうか。
資本主義についての説明を本などで読むと、”資本家、資本金、労働者、株式会社、イギリス産業革命”等、いきなり資本主義に関する用語が沢山でてきがちです。
でも、これらの用語は、資本主義を構成する道具・要素に過ぎません。
資本主義で最も重要なことは、その言葉が意味する理念なのです。
資本主義とは?について、まずその理念を中心に説明します。
資本主義とは?その重要な理念について
資本主義の資本とは要するにお金のことです。
だから、資本主義は、”お金主義”ともいえるのです。
実際、日常生活でお金がなければ、物もサービスも購入できなければ、給料ももらえません。
日本を代表する大企業も資本金は1000億円以上必要というようにお金はなくてはならない存在です。
でも、資本主義はこのこと自体を意味しているわけではないのです。
世の中には保守主義、民主主義、社会主義等●●主義という言葉が沢山あります。
●●主義という言葉の一番大事な点は、”主義の理念”になります。
会社でいえば、経営理念、社是といったような事柄が最も重要なのです。
そういう観点から、資本主義の理念をまとめると以下のようになります。
資本主義とは
”お金を儲けるために労働することに価値があると認め、お金そのものが利子によってお金を生み出すことを良い”
とする経済社会のことを意味します。
日本では、武家社会全盛期には、士農工商ということで”商売をする人”は一段低い
存在に置かれていました。
また、中世のヨーロッパではキリスト教的価値観から金儲けそのものを禁じていました。
現代の資本主義社会では、反社会的・違法な手段によらなければ、”経済活動を通じて、お金を稼ぐ”ことは、個人も企業も禁止されるどころか、国の経済的な発展に寄与するものとして好ましいものと捉えられています。
このように”お金儲け”に対する価値観が転換されたのは、資本主義の理念が世界に浸透したからです。
資本主義は、キリスト教的価値観が支配するイギリスで誕生しました。
金貸しさえ禁じていたキリスト教社会のイギリスでなぜ資本主義が誕生したのかについてわかりやすく説明します。
金貸しを禁じていたキリスト教の風土からなぜ資本主義が生まれたのか?
ベニスの商人というシェークスピアの戯曲は世界的によく知られていますが、この作品で描かれている悪徳の”金貸し”のモデルはユダヤ人です。
当時、キリスト教社会では、金貸しは禁じられていましたので、その担い手には、キリスト教徒ではなかったユダヤ人しかいなかったからです。
このように、もっとも原始的な金儲けの商売である、”金貸し”さえも禁じていたキリスト教的価値観が支配していたヨーロッパが、なぜ資本主義の発祥の地となりえたのでしょうか。
結論からですが、キリスト教のうち、既存のカトリックを批判して誕生したプロテスタントによって資本主義が生まれ、誕生したといえるのです。
以下にその背景についてわかりやすく説明します。
プロテスタントが資本主義の誕生・発展に大きな影響を与えた理由とは?
近現代で特筆すべき出来事の一つは、資本主義の誕生・発展です。
なぜなら、資本主義が誕生してから100年余りで、それ以前の全ての時代に生きた人類が作りあげた富の総計を遥かに上回る富を産み出したからです。
資本主義の誕生というと資本家・お金・工場ということに着目されがちですが、それらは資本主義以前にもあったのです。
でも資本主義は誕生しませんでした。
資本主義の誕生・発展には、今風にいうと”強いモチベ”が不可欠だったのです。
その強いモチベを産み出したのが、キリスト教プロテスタントなのです。
経済状況とキリスト教の関係性
ヨーロッパには沢山の国がありますが、主要国について経済的な観点から分類すると
以下のようになります。
①経済強国
ドイツ、イギリス、スウェーデン
②経済がうまくいっていない国
イタリア、スペイン、ギリシャ
①の3か国の共通項はいずれもプロテスタント信仰が主となっている国です。
中でもイギリスは産業革命を通じて、資本主義を誕生させた国です。
対して
②の3か国は、イタリアとスペインがカトリック、ギリシアがカトリック系のギリシア正教となっています。
ギリシアというと世界を震撼させた財政危機、スペインというとシェスタという昼寝の習慣から、経済的に成功しているとは言い難いイメージを持つ人も少なくないでしょう。
一方、経済強国がいずれもプロテスタント信仰が強い国なのは、単なる偶然では?と思われるかたもいらっしゃると思います。
でも、歴史的にみれば、”プロテスタントが資本主義の誕生・発展”に大きな影響を与えたとする説は、世界的に有力な定説となっているのです。
プロテスタントが資本主義に大きな影響を与えた歴史的背景とは?
プロテスタントは、”教会にお金を寄進する代わりに免罪符を受け取る”というカトリックの慣習を批判して誕生しました。
誕生の経緯から、同じキリスト教でも両者では天国にいける基準が違うのです。
プロテスタントでは、”教会にいくら寄進したところで天国にいける保証はなく、神に選ばれているものだけが天国に行ける”という考え方をします。
これを予定説といいますが、プロテスタントの歴史で重要な人物のカルヴァンは「神様は予定説によって、救われると定めた人に、使命を与えている」と唱えたのです。
キリスト教徒にとって死後、天国に行けるかどうかは大問題です。
そこでプロテスタントの信者は、職業を天職と捉え、神様から与えられた使命だと考えるようになったのです。
その結果、仕事・労働に対する強いモチベーションが生まれました。
今風にいうと”ビジネスの成功には強いモチべが必要”といったところでしょうか。
プロテスタントの信者は”神に救われる可能性を確実にしたいという思いから職業を使命・天命”と捉え、一生懸命働くようになったのです。
懸命に働いて、「職業という使命」を全うすることができれば、”きっと神から選ば
れて天国に行ける”そう信じたのです。
とにかく、プロテスタントの信者は”天国にいけるかどうかはっきりしない”ので不安なので、一生懸命働きました。
なにしろ、天国にいけないということは”地獄行きを宣告された”のに等しいのですから必死にならざるを得ません。
そのため、例えば、”良い服を沢山生産して、それを欲しているより多数の人に提供できれば”神様が与えられた使命を果たしていると判断してくれる”のでは、と考えたので、儲けたお金で工場を新設する等、投資することで生産を拡大していきました。
ビジネスに例えれば、神様が社長だとすると、信者は従業員で”出来るだけ多くの人の役にたてば”、社長から”お前よくやっているから、天国にいけるよ、俺が保証するよ”と認めてくれるはずだと思い込んだのです。
プロテスタントの間でこのように経済活動が活発になったことで、ヨーロッパの一部で次第に経済が発展、その規模も次第に大きくなっていきました。
ヨーロッパのうちプロテスタント信者が多い国で経済の好循環が形成され始めたのです。
18世紀後半になるとプロテスタントの最有力国のイギリスで産業革命が起こりました。
この産業革命が資本主義の誕生につながっていったのです。
その後、やはりプロテスタントの大国であるアメリカにも資本主義の理念が伝わり、世界一の経済強国を作り出しました。
以上から、プロテスタントという宗教と資本主義という一見、全く無関係に思える事柄が強く影響しあい、現在に至っているのです。
これまでの内容で、中には資本主義誕生以前に日本でも呉服屋等の客商売が存在していたけど、それらは資本主義とはいえないのか?という疑問を抱かれる人もいらっしゃるかもしれません。
そこで、京都に先祖のルーツがある筆者が、京都伝統の商いを例にとって、”客商売”と資本主義の違いをわかりやすく説明します。
京都伝統の”一見さんお断り”はなぜ資本主義とはいえないのか?
今でも京都の一部の飲食店では、”一見さんお断り”という表示をみかけることがあります。
さらに昔の京都の老舗や格式の高い商店では、品物があっても、客によって売るかどうか判断することは通例でした。
このような、京都伝統の商売は、”お金と商品を交換している”点に着目すると資本主義ではないかと思いがちです。
でも、資本主義の最大の特長は”経済的合理性の追求”つまり、”儲けを可能な限り多くする”ことにあります。
この点で、京都伝統の商売のスタイルは、客を選別することで、”儲ける機会を意図的に少なくする”という取引をしていますので、お金を介在した商売とはいえても、資本主義とはいえないのです。
つまり、商売と資本主義の分かれ目の重要なポイントの一つは、経済的合理性を追求しているか否かにあるのです。
資本主義社会に必須の3つの仕組みとは?
資本主義社会に必須の3つ仕組みは、以下の通りです。
・私有財産制
資本主義社会では、個人や企業等の資本家は、利益を追求して財・サービスをつくりだしますが、そのために必要な工場・土地・機械などの生産手段を私有できる私有財産制が必須となります。
・労働力の商品化
資本家と違い生産手段をもたない者は労働力を提供することで資本家から対価として賃金をもらう”労働力の商品化”が必須となります。
・金利の認知
資本主義社会では、金利は必須です。
ただ、中世のヨーロッパでは、金利は、悪徳な金貸しが経済的困窮者から掠めとると捉えられていたため、キリスト教的価値観にそぐわないとして禁じられてきました。
資本主義社会では、金利に対する概念を”時間に対する対価”と考え、経済合理性追求のため不可欠の存在として、認知されたのです。
20世紀に、産業革命を起点とする資本主義の矛盾を捉えた社会科学者のカールマルクスにより、共産主義が提唱されました。
1916年には共産主義国がロシアに誕生しましたが、1991年に崩壊し、事実上、共産主義は資本主義に負けたのです。
資本主義を超越すると豪語していた共産主義の崩壊の背景を探ることで、資本主義の理解が深まると思いますので簡単に説明します。
共産主義はなぜ、資本主義に負けたのか?
共産主義は、”資本主義社会において、労働者が資本家に経済的に搾取される”姿を”人間の疎外、資本主義社会の矛盾”ととらえ、それを克服するためにドイツのカール・マルクス氏らによって考え出されました。
1916年には、ロシア革命により、人類史上初の共産主義国ソ連が誕生しました。
しかし、ソ連では、共産主義国特有の国家による計画経済が破綻、国そのもの崩壊、1991年についに共産主義体制を放棄しました。
共産主義の考えでは、資本主義社会の発展の延長線上に共産主義社会があるとしていましたが、その資本主義にも負けた格好になったのです。
負けた理由について、これまで世界中の識者が様々に論じてきましたが、結局のところ
”人間の本質な欲求に根差さない社会は息詰まる”ということに集約されるようです。
有力な共産主義国であった東ドイツ=ドイツ民主共和国(現ドイツ)の最後の首相となったモロドウ元首相は、”共産主義がうまくいかなかったのは、そもそも教科書が間違っていたからだ”という名言を残しています。
つまり、共産主義は、人間の基本的な欲求である”お金を稼ぎたい、大儲けしたい”という意思を好ましくないものとして捉え、土地の私有を認めない等、個人に様々な制約を課したことが労働意欲の低下を招き、ひいては国全体の破たんを招いたのです。
逆に資本主義が発展し続けているのは、”お金儲けを良いもの”として個人の自由にさせているからです。
世界的に見て異質とされる日本型資本主義が誕生した背景とは?
血も涙もないのが資本主義?
日本でも外資系企業というと”翌日もう自分の机がなかった”、”いきなり、リストラされた””事務所が突然閉鎖された”というような話をよく耳にするのではないでしょうか。
こうした場面に遭遇すると多くの日本人ビジネスマンは、”外資系はドライ”、”外資系は血も涙もない”という声をあげがちです。
でも、契約によって労使関係が規定されている資本主義社会では、外資系企業のスタイルの方が本来の姿なのです。
契約という紙切れだけで規定されている人間関係は、ドライでなくてはおかしいのです。
むしろ、一昔前よりだいぶ弱まったとはいえ、労使関係に家族的な温情という要素が入り込む日本型資本主義の方が異質なのです。
日本型資本主義が誕生した背景とは?
日本では明治維新後も地主制という土地をめぐる封建制度が温存されました。
地主制は、農業分野だけにみられた”地主と小作人”といういうなれば”主人と家来”のような関係性によって成り立っていました。
対して、資本家と労働者は、契約にもとづく単なる雇用関係に過ぎません。
契約書という紙ぺらのみの関係ですので、資本家が必要ないと思えば、容赦なく契約を終了するのは当然なのです。
ところが、日本では資本主義社会が形成されていく中で、”地主と小作人”の関係性が農業以外にも広がっていきました。
たとえば、第二次大戦時には、従業員が兵隊に召集されても企業は、給料を支給していました。
これは、資本家と労働者の関係が擬似家族のような関係性だったからです。
この擬似家族のような関係性が戦後の高度経済成長を支えていくことで、日本型資本主義が誕生・発展していきました。
まとめ
①資本主義とは”お金を儲けるために労働することに価値があると認め、お金そのものが利子によってお金を生み出すことを良い”とする経済社会のことを意味します。
②資本主義の実現に必要な仕組みは、私有財産制、労働力の商品化、金利の概念の認知
③資本主義の誕生・発展にはキリスト教プロテスタントが大きな役割を果たしたということが世界的な定説となっています。
④日本型資本主義は、”地主と小作人”の擬似家族のような関係性が資本主義に持ち込まれたことで誕生・発展してきました。
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