夜空に泳ぐチョコレートグラミー(町田そのこ著)を読んだ感想やあらすじ

書評

今回は、町田そのこの「夜空に泳ぐチョコレートグラミー」を、私の感想とともにご紹介致します。



本の属性

「夜空に泳ぐチョコレートグラミー」は、2017年に町田そのこという女性の作家が発表した短編集です。

女による女のためのR-18文学賞という催しで第15回大賞を受賞した「カメルーンの青い魚」という作品を筆頭に、他4作品が収録されております。

この作品は新潮文庫の企画フェア「第7回紅白本合戦」において、女性に売れた本2位としてランキングされておりました。

どちらかと言えば女性に人気のある作家・作品です。

これまでの説明で、女性向けの作品かと思われた方も居るかも知れませんが、男性でも特に問題なく読めましたのでご安心下さい。

購入したきっかけ

ズバリ「タイトル買い」です。

私は魚が好きなので、つい惹かれてしました。

タイトルにある「チョコレートグラミー」とは、熱帯魚の一種なのです。

派手さこそありませんが、可愛らしい体型とオシャレな縞模様から根強い人気のある種類です。

マイナーな熱帯魚、という程でもありませんが、グッピーやエンゼルフィッシュ程にはメジャーではありません。

なので、この魚をタイトルに持ってくる人は、熱帯魚に詳しくて、しかもそれを連想させてくれる作品と世界を提供してくれるんだという期待感も多分にありました。

あらすじ

全部で5作品あるので、それぞれを簡単にご紹介致します。

一作目「カメルーンの青い魚」
両親がなく、祖母に育てられた「私」と、児童養護施設出身の幼馴染「りゅうちゃん」の巡り合いの物語です。

二作目「夜空に泳ぐチョコレートグラミー」
母子家庭で育つ中学生の「俺」が、母親がなく、祖母に見守られて育つ同級生「晴子」を見守る物語となっています。

三作目「波間に浮かぶイエロー」
恋人を亡くしてしまった女性「沙世」と、旦那から浮気され、現在妊娠中の「環」が、
「おとこ」から「おんな」に変わる途中経過「おんこ」であるおネエの「芙美」とお互いを通して自分を見つめ直すお話です。

四作目「溺れるスイミー」
製菓会社の工場で働きながら、彼氏からのプロポーズの返事に迷う「唯子」が、住処を転々とする風変わりな大型ドライバー「宇崎くん」と出会い、自分の居場所を探すストーリーとなっています。

五作目「海になる」
子供を死産してい以降、夫からの激しいDVに悩み、ついに自殺を決意した「桜子」が、みっともない風貌だが度し難い独特の雰囲気を持つ男「清音」との邂逅で、生と死の意味を悟る物語です。



感想

各作品の表題やあらすじからも何となく察して頂けたかもしれませんが、これらの5作品は雰囲気が統一されています。

物語の随所に、魚の名前や、魚が暮らす場所である水に関係する言葉や物が何かの象徴としてほぼ意図的に描かれておりました。

のみならず、これらの作品は世界観をともにしております。

少しネタバレ気味になりますが、同じ登場人物が、複数の作品をまたいで登場するのです。

役回りとしてはそれほど重要ではなかったりしますが、これもまた、この本の雰囲気を統一するための作者の仕掛けでありお遊びでもあるのだと思います。

そして、これらの作品はテーマも統一されておりました。

それは「生き続けること」です。

この作品群の主役はいずれも「生き辛さ」を抱えており、普通に生きていけている周りの人たちを、羨ましくも疎ましくも感じています。

どうして自分は周りと違うのか、という葛藤がありながらも、人出会い、行動を共にすることで、最後は生きていくことへの決意と肯定が現れます。

あらすじだけだと、重々しい話だと感じるかも知れませんが、どれも希望のある終わり方となっており、嫌な気分になる物語ではありませんでした。

最初は、どれか一つの作品を深堀りする予定ではありましたが、上記の理由から、全ての作品に触れないわけにもいかず、かといって深く語るわけにもいかず、あらすじ語りも簡単なものになってしまいました。

是非読んで確かめて頂ければ幸いです。




 この本の一番良いところは、テーマや舞台、雰囲気を統一しておきながらも、物語の切り口がそれぞれ異なっているところです。

そのために読んでいて飽きるということがありません。

悩んで悩んで希望へ、という大筋は変わらないのですが、それぞれの悩みにきちんと寄り添いながら希望へ向かうので、その過程も結末もまた異なるものになっているのです。

性や暴力、逃避行のにおいが多めにするのも、読者を飽きさせないための工夫なのかもしれません。

また、テーマが「生きること」ならその反対で「死」というものに触れがちですが、それは最後の「海になる」まで大きくは触れられません。

むしろ、この作品だけ、生と死の対比がしっかりと描かれているように感じます。

わざとこの対比を最後まで取っておいたのだとしたら、町田そのこの物語の構成力に脱帽せざるを得ません。

 一方で、文章がやや読みづらいところがありました。

特徴的だったのが、会話文にカギカッコが使わず、段落も変えず、地の文のナレーションや心境と混ざって書かれていることです。

全ての会話がそうというわけではなかったので、何か決まりがあるのでしょう。

時の流れを感じさせないため、一つのシーンであることを強調するため、心の声と実際の声の内容が近しい(=正直)ことを表すため……色々考えられますが、決め手となる発見はできませんでした。

この点、私は工夫というよりは読みづらさの方が勝ってしまうように感じてしまいました。
とはいえ、文章がまるでダメということではありません。

この本の物語の主役が抱える悩みはいずれも私の経験したことのないものでした。

しかし、読んでいくうちにその悩みにどんどん共感できるような気がして、最後は自分も少しだけ晴れやかな気分になるのです。

読みづらさを抱えながらも、それだけ読ませる文章だということです。

やはり町田そのこは構成力に優れた作家なのでしょう。

「夜空に泳ぐチョコレートグラミー」は、短編小説集、とうよりは連作小説集といったような作品でした。

この作品は、金魚鉢とも水槽とも、海とも呼べるような、広いような狭いような世界を提供してくれます。

統一されたテーマに繰り返し触れることで、その意味が、読む前より少しわかったような気になれる作りとなっております。

一作一作でも楽しめますが、全て読み終わる頃には一冊の重厚な長編を読み終わったような気分になります。

こういった読後感は大変貴重なものだと思います。

ぜひ読んでみて下さい。

本の総合評価点数(100点満点)

85点




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