テレビや新聞でイスラム教やキリスト教に関するニュースを目にしない日はないでしょう。一方、同じ宗教であるユダヤ教が話題になることはほとんどありません。
でも、ユダヤ教は、キリスト教とイスラム教の母体ともいえる世界的にも歴史的にも重要な宗教なのです。
例えば、人類共通の1週間という概念は、ユダヤ教の教典である旧約聖書の”神は世界を創造して7日目に休まれた”ということに由来しているのです。
■ユダヤ教とは?
ユダヤ教は、ユダヤ人のための民族宗教です。
また、人類の宗教の歴史で初めて、”唯一神”という存在を信じる宗教です。
ユダヤ教が誕生した紀元前1200年ごろは多神教しかありませんでしたので、画期的な宗教といえます。
その教義は、世界を創造した”唯一神”である”ヤハウェ”が世界中に数ある民族の中からユダヤ人を選び、特別に加護するという内容を特長としています。
そして、地球にやがて到来する”最後の審判”の日には、”ユダヤ人だけが救われる”と唱えています。
こうした教義の内容から、ユダヤ教の信者は、ほぼユダヤ人だけに限られます。
トランプ大統領の長女イバンカ女史は、最近、キリスト教からユダヤ教に改宗しました。
これは、イバンカ女史の夫がユダヤ人であるためで、ユダヤ教では、母親がユダヤ教徒でないと子供がユダヤ教徒になれないからということが影響しているようです。
このように特殊な事情がない限り、他民族がユダヤ教徒になるには考えにくいのです。
ユダヤ教が世界的な宗教になれなかったのは、このためです。
キリスト教やイスラム教が民族や国を飛び越え、多くの信者を抱えているのと対照的です。
■ユダヤ教の創始者とは?
ユダヤ教の創始者は、モーゼの十戒で有名なモーセです。
モーゼが現在のエジプト・シナイ半島あたりで遊牧をしていたときに、いつまでも消えない炎を見て、不思議に思い、近づいたところ”我はお前たちの主である”と語りかけてきたことがきっかけと伝えられています。
このモーセは数々の奇跡を起こしたことで知られ、特にエジプトからユダヤ人が脱出しようとした時に、眼下に迫った海をこじ開け、道をつくり、脱出を成功させたという”出エジプト記”は、世界的に広く知られています。
■ユダヤ教の聖典とは?
ユダヤ教の聖典は、旧約聖書です。
有名なアダムとイヴの物語も旧約聖書の一部です。
旧約聖書は律法書、預言書、諸書から構成され、中でもモーセ五書といわれる
「創世記」、「出エジプト記」、「レビ記」、「民数記」、「申命記」は最も重要視されています。
モーセ五書は、トーラーともよばれています。
ちなみにキリスト教もイスラム教も旧約聖書は、聖典として認めています。
■旧約聖書と新約聖書の違いとは?
キリスト教の聖典である新約聖書を中には、出版物になぞらえてユダヤ教の聖典の旧約聖書を編集し直した聖書と捉える人もいるようです。
旧約聖書と新約聖書は全くの別物です。
両者の違いは下記の通りです。
★旧約聖書
神との旧い契約
紀元前1250年ごろ、イスラエル民族のエジプト脱出後にシナイ山でモーセを介して唯一神ヤーウェと結んだ契約。
★新約聖書
神との新しい契約
1世紀初頭にパレスチナのガリラヤ地方で宣教したイエスによる新しい契約。
要するにビジネス用語に例えるとキリスト教の立場からみて、ユダヤ人との神との契約は一民族だけを加護するという不十分な内容の契約だったので、イエスがこれに異議を唱え、新しい契約を神と結んだということになります。
■ユダヤ教の信者数
ユダヤ教の信者は全世界で約1500万人、その大半はユダヤ人の国イスラエルとアメリカに集中しています。
キリスト教が約20億人、イスラム教は10億人ですから、信者の数だけをみたら、取るに足らない存在です。
でも、信者の数からしたら信じられないほどの影響力を持っているのです。
なぜなら、キリスト教徒もイスラム教徒もユダヤ教は信じないものの、自分たちの宗教を産み出した宗教として、一定の敬意をはらっているからです。
でも、これまでの歴史から、この3つの宗教は争いが多いのも事実です。
■ユダヤ教からみたら長女はキリスト教、次女はイスラム教?
あるユダヤ教の宗教的指導者が、”ユダヤ教とキリスト教、イスラム教との関係”を問われたときに
”ユダヤ教からみたら長女はキリスト教、次女はイスラム教のようなものです。なのに、いつも長女や次女から迫害されたり、戦いを起こされてきている、こちらから先に仕掛けたことはないのに”と語っていたことが印象的でした。
実際、キリスト教もイスラム教もユダヤ教の聖典である旧約聖書は、信仰の対象にしています。
しかし、ユダヤ教はキリスト教の聖典である新約聖書、イスラム教の聖典であるコーランは認めていません。 この点が、この3つの宗教の一筋縄ではいかないところです。
ニュース等で見聞きする限り、ユダヤ教とキリスト教、イスラム教は不倶戴天の敵のように見受けられますが、実際にはかなりの共通項があるのです。
宗教と食べ物というとイスラム教徒が豚肉が食べられないということが広く知られていますがユダヤ教でも色々細かく規定があり、日本人が普通に食べているものが食べられないものとされています。
■ユダヤ教と食べ物
ユダヤ教では、食べ物について様々な規定があります。
★食べてよいもの
野菜、牛肉、鶏肉、魚類
※牛肉については、ユダヤ教が規定する処理を経たものだけが食べられます。
★食べられないもの
豚肉、ウサギ、ラクダ
※ひずめが割れてなく、反芻しないもの
※肉と乳製品は一緒の食事に出すことは禁止
猛禽類
貝類、タコ、アワビ、ホタテ
ユダヤ人が回転寿司店に入ったら、貝類、タコ、アワビ、ホタテは全てスルーということになりそうです。
ただ、ユダヤ人の国イスラエルでは、ラーメンが人気で、ユダヤ教の教えに反して豚骨ラーメンを食する人もいるようです。
つまり、同じユダヤ人といっても厳格な人もいれば、”ゆるーい”人もいるということでしょう。
何となく、ホッとさせられような感じがします。
■ユダヤ人の休日は日本人とどう違う?
ユダヤ人の休日は、金曜の日没から土曜の日没までです。これはユダヤ教で規定された安息日です。
同じ金曜日といっても日本人のハナ金感覚とは全く別物です。
ユダヤ人にとっての安息日は、日本人にとっての大晦日に相当する慌しさで金曜日の午後はできるだけ早く仕事を切り上げ、買い物や掃除、料理、入浴を一気に済ませます。
つまり、安息日になると文字通り、”何もしてはいけない”のでそれまでにやらなくてはならないことを一気に片付けようとするのです。
今日はハナ金だから、どこに遊びに行こうという日本人の休日感覚とは大違いです。
また、土曜日には一切の労働が許されないので、歩くことさえ出来ないとされています。
■ユダヤ教の聖地
ユダヤ教の聖地は、エルサレムとされています。
なぜかというとエルサレムに神殿があるからです。
ユダヤ教では、神殿は、神の舞い降りる聖なる場所とされているため、エルサレムが
聖地とされているのです。
イスラエルがエルサレムを首都とすることにこだわっているのは、このためです。
ただし、エルサレムを聖地としているのは、ユダヤ教だけでなくキリスト教もイスラム教もです。
だから、イスラエルがエルサレムを首都とすること大きな反発があるのです。
■ユダヤ教の協会のシナコーグとは
ユダヤ教の礼拝所は、シナコーグと呼ばれます。
正統派の礼拝には、成人男子10人の定数が必要とされます。
祈りは日に3回、男女の席は分けられ、頭部には覆い物をかけることになっています。
礼拝の進行役はキリスト教の牧師に相当するラビか、会衆の中の1人が受け持ちます。
日本のシナコーグは、東京港区の広尾にあります。
■イスラム教からみたユダヤ教
イスラム教とユダヤ教というと犬猿の仲というイメージが強いですが、宗教的には決して仲が悪いわけではないのです。
イスラム教の解釈では、イスラム教はキリスト教、ユダヤ教と兄弟の関係にある宗教だとしています。
かつて、神はユダヤ人に正しい宗教を伝えたもののユダヤ人はそれを自分たちの都合の良いものに変えてしまったことで神の怒りを受けた。
そして、キリスト教も信者たちが勝手に教義をつくり、本来のものとはかけ離れた宗教にしてしまった。
それで、最終的に神がムハンマドを通じて、最後にイスラム教を伝えたというのがイスラム教の立場です。
ただし、ユダヤ教はイスラム教を認めていませんので、両者は良好な関係になりえないのです。
■まとめ
①ユダヤ教は、ユダヤ人の民族宗教で信者数は、約1500万人
②ユダヤ教は、紀元前1250年ごろ、イスラエル民族のエジプト脱出後にシナイ山でモーセを介して唯一神ヤーウェと契約したことをきっかけにして創始されました。
③ユダヤ教の聖地は、エルサレムで神殿があるため、ユダヤ人にとって聖なる地とされています。
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